Escaping from Disaster: Lesson from the Edges of Technology

アメリカの技術評論家James R. ChilesはP.29で、
平均的な人びとは、「システム事故は、通常長期にわたってミスと不幸な出来事が積み重なった結果として生じるものだ(青天の霹靂のようなものではない)」ということを理解し、さらに、「人間のミスはいくつかの大きなカテゴリーに分類できる、初期段階で行動を起こせば事故原因の連鎖は断ち切れる」ことを理解すれば、「トラブルが発生しそうな状況をいっそうよく見抜けるようになるはずだ」と述べています。出典 INVITING DISASTER: Lesson from the Edges of Technology James R. Chiles 2001(最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか 草思社文庫2017年8月8日)

人間のミスはいくつかの大きなカテゴリーに分類できる、初期段階で行動を起こせば事故原因の連鎖は断ち切れる」

さてここで、スキルベースのミス(Slips and Lapses)、ルールベースのミス(Rule-based Mistakes)、知識ベースのミス(Knowledge-based Mistaks)について学んでいきましょう。

人間のミス(ミステイク)をカテゴリーに分類したミスの対策。

「組織事故」で有名なジェームズ・リーズンが提唱した「エラーの分類モデルの主な3つのカテゴリー」を理解し、人間のミスの防ぐ、対策をChap. 1. からアプローチして行きます。

Chap. 1. 「エラーの分類モデル」に基づく、3つのカテゴリー分類の理解とミスの原因に、効果的な対策。

1.スキルベースのミス(Slips and Lapses)

このミスは、慣れた作業自動的に行われる行動の最中に起こります。私たちの脳が、モノゴトを進め効率化のために無意識に「ショートカット」をする時に起きやすい。無意識でないのは、次の2. ルールベースのミスです。

  • スリップ (Slips):意図した行動と異なる行動をしてしまうミスです。例えば、コーヒーにミルクを入れようとして、間違えて砂糖を入れてしまうといった行動の失敗です。
  • ラプス (Lapses):行動そのものを忘れてしまうミスです。鍵をどこに置いたかを忘れたり、今から取り掛かろうと思っていたタスクをすっかり忘れてしまったりするような記憶の失敗です。こんなことよくありませんか? “頼み事は一つだけ、それ以上にはしないこと”

ミス防止策

  • チェックリストの活用: 重要なタスクの前後で、確認すべき項目をまとめたチェックリストを作成し、都度確認する習慣をつけます。特に、慣れている作業ほどチェックリストは効果的です。さらにチーム員のダブルチェックを受けること。(ダブルチェックは価値を生んでくれませんが)業務次第ではルール化すること。
  • 環境の整理: 物理的な環境を整理・整頓し、必要なものがすぐに見つかるようにレイアウト配置します。例えば、不要なもの捨てる、よく使うツールや書類を定位置に戻すルールを決めること、整理整頓、一仕事一片づけ、前段取り、あと段取り。ラプスによる探し物の時間を減らせます。
  • 注意力の回復: 長時間集中する作業では、ergonomics(人間工学)を考慮した休憩を挟み、脳の疲労を回復させることが重要です。これにより、注意力の低下によるミス、ミスから起きるケガを防ぎます。

 

  1. ルールベースのミス(Rule-based Mistakes)

ルールベースのミスは、「特定の状況でどうすべきか」というルールや手順をとり間違ってつかってしまうことで起きます。ルール自体は知っているが、教育が不十分であったり、教育のフォローがなかったり、リフレシュトレーニングもなく、状況を誤って判断したり、その結果、仕事に適切でない、不適切なルールを選んだりすることが原因です。

  • 例えば、雨天時には換気扇のルーバーを閉じるというルールを知っていても、「こ程度の雨は前も閉めなくても問題なかったからr大丈夫」とルールを守らないという誤った判断をし、問題や事故を起こすようなケースです。

 

ミス防止策

  • ルールの明確化と共有: ルールや手順を見直し、誰が読んでも同じように理解できる用語、言葉で誰でもわかり使える優しいルールを明確にします。チーム内であれば、そのルールを適用出来るか、適用できないかを具体的に議論しレビューし見直し、使えるルール適用について共通認識を持つことが重要です。
  • 事例研究(ケーススタディ): 過去に起きたミスやヒヤリハットの事例を分析し、どのような状況でルールが誤って適用されたのかを共有します。これにより、同じ過ちを繰り返さないための教訓を学びます。そのためには、SMART法則を活用する。活用のベースは①Specific(具体性)②Measurable(計量性) ③Achievable(達成可能性)④Relevant(関連性)⑤Time-bound(期限)
  • 意思決定のプロセスの見直し:
    意思決定を行う際、複数の視点から検討するプロセスを導入します。例えば、重要な判断の前には、第三者の意見を求めるプロセスで、自分及びチームの判断の偏りを防げます。 引用:ISO31000 リスクマネジメントプロセス 個条6を以下

 

  1. 知識ベースのミス(Knowledge-based Mistakes)

これは、経験したことのない新しい状況や、十分な知識がない状況で起こるミスです。正しい知識や情報が不足しているために、間違った判断や行動をしてしまいます。このタイプのミスは、理解の不足から生じます。

  • 例えば、新しい機械の操作方法を学んでいなく、具体的な実機の操作手順を知らずに、自分の勝手な推測でボタンを押した結果、機械を故障させてしまうようなケースです。

ミス防止策

  • 継続的な学習とトレーニング: 知識の不足している分野について、計画的に、積極的な学習の機会を設けます。新しいツールや技術を導入する際には、十分なトレーニング期間(座学、実機訓練、フォロー、資格認定)を確保し、操作方法やリスクを事前に理解しておくことが不可欠です。
  • 情報の集約とアクセス: 必要な情報やマニュアルがどこにあるか明確にし、誰もが簡単にアクセスできる状態にしておきます。これにより、知らない状況に直面した際に、正しい情報を迅速に手にし、確認できるようになります。
  • 社員全員、専門家と相談: 未知の状況や複雑な問題に直面した際は、一人で判断せず、その分野の社員、専門家や経験者に相談する。Psychological safetyあるコミュニケーション文化を醸成します。これにより、誤った判断を下すようなリスクを大幅に減らせます。Psychological safetyあるコミュニケーションはハイペースでWell-beingにつながっていきます。

 

Chap. 2.「マーフィーの法則」はほんとうか

最悪の事故を起こさないために人は何をすべきか考えてみましょう。

以下*出典 INVITING DISASTER P.29
……………事故後に生き残った人びとが、周囲に生まれた新しい世界を理解しようとあがいているあいだにも、貴重な時間が刻々とすぎていく。これはクラッシュしたプロセスコントロールココントロールを再起動するときにかかる時間とにている。そうした出来事は、あまりにも普通とは違っていて、どこか不思議で妙な様子だったり、あまりにも大きなショックを受けて人間的な本能行動である「取り組むか、逃走か」という行動をももたらさないことがある。

人びとはパニックになってはいけないときにパニックになる。逃げ出さなければ助からないときに、じっとすわっている。不時着した英国航空機の乗客のひとりがあとから語ったところによると、同乗者たちは、衝撃の激しさにびっくりしたのと、自分たちがまだ生きているのにおどろいたあまり、全員が静かに着席したまま、通路を流れてくる燃料の火炎をながめていたという。

だが、強い力をもつ「マシン」は不思議および恐怖の領域にあっても、それはまた、奇跡と驚異の場でもある。そうした世界では、信じがたいような出来事の連鎖や不可能に思えた突然の救出劇を、われわれにもたらす。

 

……….古典文学では、主人公となる英雄と悪役とを必要とした。われわれも躍起になって探せば、状況の連鎖をつくる少なくともひとつの環をにぎっている人物を探し出すことはつねに可能である。いまわれわれは、少数の人間が、犯罪の意図はないままに、何千何万という人びとを殺傷するかもしれないという特殊な時代に生きている。ここでは、実際の悪役とは状況の連鎖であり、名前も顔も持っていない。「まつたく善良な人びと-最高にいい人たち-が、恐ろしい事故を引き起こす」。ミネアポリスで起こった一九九八年のパレードの際のオートマチック車暴走事故の犠牲者側弁護士、ジム·シュウェーベルはそう述べている。出典 INVITING DISASTER: Lesson from the Edges of Technology James R P.398

システム(「組織」「制度」「体制」「系統」)亀裂は、犠牲者の行く末が最初から運命づけられているシェークスピアの悲劇やギリシア悲劇とはちがう。システム亀裂は運命とは関係ないし、災害も不可避ではない。一般に.「マーフィーの法則」と呼ばれる格言を聞いたことがありますよね、

マーフィー曰く:「失敗する可能性のあるものは、かならず失敗する。ありうベさ最惡のときに」。さてこれって本当でしょうか?

……何年ものあいだに航空機はフライト中に、ニアミスはかぎりなく発生しているにもかかわらず必ずしも事故にはいたっていないのだから、この法則は、正しくない。おそらく賛成していただけるだろう。

元東邦大医学部精神神経科助教授の高橋先生は、「このジョーク集には、経験法則や帰納が陥りやすい実例がある」といい、
「洗車しはじめると雨が降る」という言葉に共感する人は、洗車しはじめてすぐに雨が降ったという出来事の印象を引きずっているのが原因だ(実際は洗車しても雨が降らない場合の方が多いのだが、そうしたありきたりな結果は記憶に残らないがゆえに考慮されることもない)、もしマーフィーの法則が正しければ、「雨を降らせたいので洗車しよう」という言葉が引き出せることになると曰く。

さらに未然に防止された惨事は、めったに報道されないので、新聞やテレビを見ている人は、ともかく災害は不可避なのだと考えていると想像できますよね。

そして災害の事前対策をして未然に災害を防いだ事例は皆さんの記憶にもあるでしょう。危険性を見ぬき、システムに存在するリスクを初期の段階に手を打った、リスクをとめた人が存在する事例も数多くあります。(ここでは以下を紹介します)

  • 一九八九年一〇月にデラウェアリバー水路の浚渫(しゅんせつ)にあたっていたエセックス号が、間一髪のところで助かった例を見てみよう。

この浚渫船はタグボート二隻によって移動するが、さらった汚泥を岸まで運ぶための鋼管につながれ、太いワイヤーロープで固定されていた。一〇月一六日、たまたま通行中のタンカー「コメティック」が、一隻のタグボートのェンジントラブルが原因で操船不能になり、エセックスの方角に進みはじめた。

このままでは工セックスは転覆し、乗組員は水死してしまう。船体がワイヤーロープで鋼管に固定されているので、エセックスは逃げ出すわけにいかない。だが、そんな状況でもかれらはあわてなかった。

(なぜか)作業班編成時の安全チェックの段階でノーフォーク浚渫会社の社員、ビル·マーフィーは、(あるとき)鋼管につながるケーブルを緊急切断しなければならない事態に遭遇するかもしれないと考え、そのための油圧式ケープル切断機を要求した。

浚渫責任者はこのカッターの即時購入を命じたので、乗組員はそれを手元に用意しておけるようになり、コメティックが近づいてきたときも鋼管とつながるケープルを切断して動けるようになった。(だからこんな状況でもかれらはあわてなかった。こうした、救出劇はまだ他にいくらでもあるが、ほとんどは関係者以外には知られていない。(事例はここまでです。)

では惨事にはいたらなかったニアミスも取り上げます。ハッブル宇宙望遠鏡の主鏡の変形 出典 INVITING DISASTER P.191 (すでにこの投稿記事はお読みいただいていると思いますが)というような、死傷者のない災難も同様に取り上げる。そこにも教訓がひそんでいます。こうした失敗では………….。

この事例も参考にご覧ください。戦艦メインの爆発もそのひとつで、原因はハバナ港内に敷設されていた水雷のためとされたが、もうひとつの原因として、石炭が自然発火し、隔壁をへだてて隣に積まれていた火薬に引火したということも十分考えられた。

最近の研究によれば、タイタニックは、船殻に打ってあるリベットの金属が高品質であれば、氷山と接触したぐらいでは沈没しなかっただろうといわれている。チェルノブイリ原発では、溶融したウランが炎を上げながら空中高く飛び散ったが、その原因は、燃料棒チャンネル管が迫撃砲の砲身のような役割となったそうです。

 

*出典 INVITING DISASTER: Lesson from the Edges of

Technology James R. Chiles 2001(最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか 草思社文庫2017年8月8日)<=この文庫本の事例内容は非常に参考になります。