Incident Investigationを担当する主な米国の機関
災害事故調査(Incident Investigation)とは、災害や事故が発生した際に、その原因や経緯を分析し、再発防止策を立案するプロセスです。災害事故調査は、安全管理の重要な要素で、事故の教訓を活かして安全文化を向上させることができます。
事故: モーニングコール:フィラデルフィアの製油所災害 事故発生日: 06/21/2021 | 事故の種類: 石油と精製 – 火災と爆発 のビデオをご覧ください。
Wake Up Call: Refinery Disaster in Philadelphia | CSB
災害事故調査は、死亡事故など重大な労働災害が発生した場合に、事故の原因や背景を明らかにし、再発防止策を提案するために行われる調査です。OSHA労働安全衛生局は、1970年に当時リチャード・ニクソン大統領の署名によって法制化された労働安全衛生法(Occupational Safety and Health act)に基づき設立されました。災害事故調査は米国のOSHA労働安全衛生局の監督官が主体となって実施しますが、必要に応じて専門家や関係者の意見を聴取したり、現場検証や実験などを行ったりします。
災害事故調査の結果は、災害事故調査報告書としてまとめられ、公表されます。災害事故調査報告書には、事故の概要や経過、原因分析、再発防止策などが記載されます。災害事故調査報告書は、労働者や事業者だけでなく、一般の人にも参考になる情報が多く含まれています。
災害事故調査はIncident Investigation呼ばれ、米国では、連邦政府や州政府、地方政府などがそれぞれ独自のIncident Investigationを行っています。また、民間の団体や専門家もIncident Investigationを行うことがあります。
Incident Investigationは、さまざまな目的や方法がありますが、一般的には以下のような特徴があります。
- 法的責任や罰則を決めるためではなく、事故の原因や背景を理解し、再発防止策を提案するために行われます
- 事故発生後できるだけ早く開始されます。現場の状況や証拠を確保し、関係者の証言を収集します。
- チームワークで行われます。チームメンバーは、事故に関係する分野の専門家や経験者で構成されます。
- 客観的かつ科学的な手法で行われます。事故の原因や背景を複数の視点から分析し、論理的に結論づけます。
- 透明性と信頼性を重視します。調査過程や結果は公開され、関係者や一般の人にフィードバックされます。
米国では、様々な機関が災害事故調査を実施しています。その方法や手順はそれぞれに特徴があります。本記事は、米国の代表的な災害事故調査機関である以下順にまず3つを紹介します。
- 国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board, NTSB)
- 化学物質安全・危険防止委員会(Chemical Safety and Hazard Investigation Board, CSB)
- 連邦緊急事態管理庁
- 連邦安全衛生局
- 原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission, NRC)は次回にします。
これらの機関は、それぞれ交通事故、化学工場の爆発や漏洩、原子力発電所の事故などに対して、独立した第三者として災害事故調査を実施しています。では、それぞれの機関の役割や活動内容について詳しく見ていきましょう。
災害事故調査とは、災害や事故が発生した際に、その原因や影響を調査し、再発防止や対策策定に役立てることを目的とした活動です。
以下機関の順番は時に意味はありません、
機関その1、
一番目の機関は、化学物質安全・危険防止委員会(The U.S. Chemical Safety Board, CSB)です。サイト内にvideo roomに、多くの動画があります、いい参考、学習教材になります。
CSBは、1998年に設立された独立行政機関で、化学物質の取り扱いによる災害事故の調査を行い、その報告書や勧告を公表しています。CSBは、災害事故の原因を特定するだけでなく、その背景にある組織的な問題や制度的な問題も分析し、業界や政府に対して改善策を提案しています。CSBは、災害事故の責任の追及や罰則は行わないことが特徴です。
CSBが調査した災害事故の例としては、以下のようなものがあります。
- 2005年3月23日にテキサス州テキサスシティで発生したBP製油所爆発事故。15人が死亡し180人以上が負傷した。CSBは、BPの安全管理体制や文化に欠陥があったことを指摘し、BPやOSHA(労働安全衛生局)に対して勧告を出した。
- 2010年4月20日にメキシコ湾で発生したディープウォーター・ホライゾン石油掘削装置爆発事故。11人が死亡し17人が負傷した。CSBは、BPやトランスオーシャン(掘削装置の運営会社)やハリバートン(セメント工事の請負会社)の安全管理不備や技術的な問題を指摘し、業界や政府に対して勧告を出した。
- 2013年4月17日にテキサス州ウェストで発生したウェスト肥料工場爆発事故。15人が死亡し260人以上が負傷した。CSBは、工場が保管していた硝酸アンモニウムが火災によって爆発したことを明らかにし、工場の安全管理不備や周辺地域の防災計画の不備を指摘し、業界や政府に対して勧告を出した。
最近の事例は、化学物質安全・危険防止委員会(The U.S. Chemical Safety Board, CSB)をご覧ください。
機関その2
二番目の機関である国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board, NTSB)について紹介します。videoをご覧になるにはこのサイトです。
NTSBは、米国の連邦政府機関であり、航空、鉄道、道路、海上、パイプラインなどの事故に関し独立した調査を行っています。NTSBは、事故原因を特定し、事故防止のための勧告を発行することを目的としています。NTSBは、事故発生時に現場に派遣される調査チームを有しており、事故現場での証拠収集や目撃者への聞き取りなどを行います。また、NTSBは、事故に関する公聴会や報告書の作成なども行っています。
NTSBの事故調査プロセスは以下を採用しています。
– 事故発生時に、NTSB本部から調査チームが派遣されます。調査チームは、事故現場での証拠収集や目撃者への聞き取りなどを行います。
– 調査チームは、事故原因や要因を分析し、事故防止のための勧告を作成します。
– 調査チームは、事故に関する公聴会や報告書の作成なども行います。公聴会では、調査チームや関係者が証言し、報告書では、事故原因や勧告などが記載されます。
– NTSBは、報告書を公表し、事故防止のための勧告を対象となる機関や団体に送付します。
– NTSBは、勧告の実施状況を追跡し、評価します。
NTSBは、多くの重大な交通事故に関する調査を行っており、その結果は交通安全に大きく貢献しています。
例えば、NTSBは、以下を推奨してきました。- 航空機のブラックボックスやコックピットボイスレコーダーの導入、- 鉄道車両や道路車両の衝突回避システムの導入。- パイプラインやタンカー船の安全基準の強化
機関その3
三番目の機関は連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency, FEMA)について紹介します。
連邦緊急事態管理庁( FEMA)について紹介します。
FEMAとは、米国内で発生する自然災害や人為的災害に対応するための連邦政府機関です。FEMAは、災害対策の計画立案や資源配分、支援活動などを行っています。
機関その4
災害事故調査とは、事故の原因や経過を明らかにし、再発防止のための対策を立てることです。災害事故調査は、事故の規模や影響に応じて、現場の管理者や専門家、第三者などが行います。米国では、様々な機関が災害事故調査を実施していますが、ここで紹介するOSHA(連邦安全衛生局)の災害事故調査について見ていきましょう。
OSHAは、労働安全衛生法に基づいて、労働者の安全と健康を保護するための規制や監督を行う連邦政府機関です。OSHAは、重大な労働災害や死亡事故が発生した場合に、現場に派遣される調査官を持っています。調査官は、事故の原因や責任者を特定し、違反した規制や罰則を通知します。また、再発防止のための勧告や指導も行います。
OSHAの災害事故調査は、以下のような手順で行われます。
- 事故発生後、事業主は24時間以内にOSHAに報告する必要があります。報告方法は、電話やオンラインフォームなどがあります。
- OSHAは、報告された事故の重大度や緊急度に応じて、調査官を現場に派遣します。調査官は、現場検証や証拠収集、関係者への聞き取りなどを行います。
- 調査官は、事故の原因や経過を分析し、報告書を作成します。報告書には、違反した規制や罰則、再発防止のための対策などが記載されます。
- 調査官は、報告書を事業主に提出し、必要な改善や是正を求めます。事業主は、期限内に対策を実施し、OSHAに報告する必要があります。
- OSHAは、対策の効果や状況を確認し、問題が解決されたかどうかを判断します。問題が解決されていない場合は、追加的な措置や罰則を科すことがあります。
OSHAの災害事故調査は、労働者の安全と健康を保護するために重要な役割を果たしています。しかし、OSHAの調査だけでは十分ではありません。事業主や労働者も、自らの責任と意識で安全管理を徹底し、災害事故を未然に防ぐことが必要です。
災害事故調査は、プロセス安全管理(PSM)の重要な要素の一つです。災害事故調査とは、プロセスに関連する事故や異常事象が発生した場合に、その原因や影響を分析し、再発防止策を立案する活動です。災害事故調査は、プロセスの安全性や信頼性を向上させるために必要なフィードバック機能を果たします。
米国の労働安全衛生局(OSHA)は、危険化学物質の取り扱い管理方法を定めたPSM規格(29 CFR 1910.119)を発行しています。この規格では、災害事故調査について以下のように規定しています。
– 事故調査は、死亡や重傷、設備の損傷、プロセスの中断など、重大な結果をもたらした事故や異常事象が発生した場合に行う。
– 事故調査は、事故や異常事象が発生した後48時間以内に開始する。
– 事故調査は、経験豊富で知識のある人員からなる調査チームによって行う。
– 事故調査は、事故や異常事象の原因や影響を特定し、再発防止策を提案することを目的とする。
– 事故調査の結果は、書面で報告し、関係者に共有する。
– 事故調査の報告書は、少なくとも5年間保存する。
さらにOSHAのProcessSafety Management (PSM)規格では、災害事故調査の手順や要件が具体的に示されています。
しかし、これらは最低限の基準であり、より高いレベルのプロセス安全管理を実現するためには、例えば、
- 重大な結果だけでなく、軽微な結果や潜在的な危険性も含めて、すべての事故や異常事象を記録し分析する。
- 事故調査の開始時期や期間を短縮し、迅速かつ効果的に対応する。
- 事故調査のチームメンバーや関係者を多様化し、幅広い視点や意見を取り入れる。
- 事故調査の方法やツールを標準化し、客観的かつ詳細な分析ができるようにする。
- 事故調査の結果や報告書を公開し、他のプロセスや組織とも共有し学び合う。
以上が、OSHAのPSM規格に基づく災害事故調査等についての紹介です。プロセス安全管理の中でも災害調査特に重要な役割を担っています。プロセス安全管理に関心のある方は、CSBサイトともに、ぜひ参考にしてください。
機関その5
EPA(環境保護庁)の災害調査を紹介します。
以下をご覧ください。
EPAは、米国の環境政策を担当する連邦政府機関です。EPAは、環境に影響を与える事故や災害に対して、調査や対策を行うことができます。EPAの災害事故調査は、主に以下の目的で行われます。
- 事故や災害の原因や影響を特定し、再発防止や環境回復のための勧告を提供する。
- 事故や災害に関する情報や知見を公開し、環境保護の意識や能力を高める。
- 事故や災害に関する法律や規制の遵守状況や効果を評価し、必要な場合は法的措置を講じる。
EPAの災害事故調査は、以下のようなプロセスで行われます。
– 事故や災害が発生した場合、EPAは現場に派遣されるか、他の機関と連携して調査を開始します。
– EPAは、現場での観察や証拠収集、関係者へのインタビューなどを行い、事故や災害の原因や影響を分析します。
– EPAは、分析結果に基づいて、再発防止や環境回復のための勧告を作成します。また、必要な場合は、法的措置を講じます。
– EPAは、調査報告書を作成し、公開します。調査報告書には、事故や災害の概要や原因分析、勧告などが記載されます。
– EPAは、調査報告書に基づいて、勧告の実施状況や効果をモニタリングします。また、調査報告書に関するフィードバックやコメントを受け付けます。
EPAの災害事故調査は、環境保護における重要な役割を果たしています。EPAは、事故や災害から環境と人々を守るために、常に改善と学習に努めています。
災害事故調査とは、災害の原因や影響を明らかにし、再発防止や対策の改善を目指すために行われる調査のことです。災害事故調査は、災害の種類や規模によって、様々な機関が担当しています。以上は、Incident Investigationという用語で紹介されている米国の各機関の災害事故調査について紹介しました。
最後、日本ではどのような政府機関が担当しているか
日本ではどのような政府機関が担当しているかについて概要を紹介します。そのあとにアメリカと日本の事故災害調査の優劣を紹介します。
日本では、災害事故調査の担当機関は、災害の種類や影響範囲に応じて異なります。例えば、自然災害に関する防災対策や被害状況などは、内閣府が中心となって行っています。原子力発電所事故に関する調査や検証は、内閣官房に設置された東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(内閣事故調)が行いました。労働災害に関する調査や統計は、厚生労働省が行っています。
これらの機関は、それぞれの専門性や責任範囲に基づいて、災害事故調査を行っていますが、それぞれの方法や基準は必ずしも統一されているわけではありません(縦割り行政によるのでしょうか)。また、災害事故調査の結果や報告書の公開方法も異なります。例えば、内閣事故調は、聴取記録や報告書をインターネット上で公開していますが、厚生労働省は、労働災害動向調査の結果をPDFファイルで公開しています。
アメリカと日本の事故災害調査を比較すると、違いが見られます。
- アメリカでは、Incident Investigationという用語で統一されており、OSHA(Occupational Safety and Health Administration)やCSB(Chemical Safety and Hazard Investigation Board)などの機関が担当しています。
- 日本では、災害事故調査という用語は一般的に使われていますが、担当機関により多岐にわたります。
-
アメリカでは、Incident Investigationは主に再発防止や安全管理システムの改善を目的としており、責任追及や罰則は別途行われます。
– 日本では、災害事故調査は再発防止や対策を目的として行われ、主たる目的は、次の2つと考えられています。
①事故および人的被害の発生の原因を構造的に明らかにすること。
②調査結果から、事故の再発防止の方策を提示すること。
国土交通省は、航空・鉄道・船舶について、原因究明のための事故等調査を実施し、安全対策を関係者へ提言しています。責任追及や罰則は、災害事故調査の主たる目的ではなく、別途行われます。
いずれの機関も、責任追及や罰則については、事故の原因が明らかになった後、関係者が話し合いを行い、責任を問うことがあります。また、法律に基づき、罰則が科せられることもあります。
さて今後日本の縦割り行政による種々の課題はどのように解決されるのでしょうか。
have a safe and nice day.
Design Safety System